一日塩分8gで、腹八分目のダイエット生活が始まった。
朝はトーストと目玉焼きとコーヒー。
トーストにバターを塗ると塩分の摂取量がわからなくなる。
目玉焼きに塩こしょうしたら、これまた塩分の摂取量がわからなくなる。
コーヒーには塩分は含まれていそうにない。
いちいち食べるものの塩分を気にしだした。
昼は、妻の用意してくれたお弁当を食べる。
娘が高校生の頃に使っていた小さなお弁当箱ひとつだ。
営業の仕事をしていた自分は、
お昼は、ほぼ毎日、喫茶店や飯屋のランチを食べて過ごしていた。
それもひとりで食べるのは時間が惜しいような気がして、
お客様や同僚や仕事仲間を誘うことが多かった。
それが、誰も誘わず、ひとりだけで、
公園のベンチとか、海辺の堤防とかで、 自然を相手に弁当を食べるようになった。
仕事のことじゃない、自分や家族のことを考えるようになった。
夜は、家に帰って、妻の作ってくれる夕食を腹八分目に済ます。
営業の仕事は夜まで続き、
それまでは、夕飯もやっぱり喫茶店や飯屋で済ますことが多かった。
いや、仕事にかこつけて居酒屋ということもかなり多かった。
飲み流れて2軒3軒、午前様はざらだった。
大酒飲みの大飯食らいだったのだ。
それをきっぱり辞めにした。
命と引き替えにはできないでしょ?
どんなに誘いがあっても飲み食いは断って帰るようにした。
帰って妻の用意してくれる減塩の食事を腹八分目食べるのだ。
減塩の調理を食べ比べたりする。
「こっちが普通に塩こしょうして焼いた魚で、
こっちが塩ほんのちょっとで焼いてみたんだけど、どう?」
ひとくちで、あきらかに普通に塩こしょうした方が旨い。
というか、塩ほんのちょっとじゃ、味がしない・・・・・。
しかも、醤油をかけちゃったんじゃ元も子もないから、
塩の味も醤油の味もないままの焼き魚を食べるのだ。
それは、いずれ慣れていくのだが、
はじめの頃の味気なさといったら哀しくて涙が出そうだった。
さらにその上、腹八分目はお腹が空くし、目も満足しない。
「たったこれだけ?・・・・・・」
小さなお弁当箱を開けたとき、目を疑いたくなる。
いつものペースで食べたら5分とかからずペロっと食べてしまう。
ゆっくり噛むことにした。
しっかり噛むことにした。
妻が苦労して苦心して作ってくれる減塩弁当だ。
減塩で味はしないけど、噛みしめて味わって食べるのだ。
いずれ胃が小さくなる。
人はそう言うけど、そんな実感はなく、
いつもいつも空腹と満たされない思いを抱えていたように思う。
一週間くらいが経った頃だったろうか、変化が現れ始めた。
それが、良い傾向の変化ではない。
力が出ないのだ。
体全体に力がみなぎってこないのだ。
しゃべることすら、力が入らず、どもってしまうのだ。
どうなってしまったんだろう?
(つづく)