梅干し、ひとつ

腎臓がダメだって宣告を受けてから、

とにかく塩分を嫌って嫌って嫌って・・・・・・・・・、

 

干物、漬物、練り物、汁物、etc、塩分が多そうなものは遠ざけて、

透析を受けるようになってからもその暮らしはずっと続いている。

梅干しも、たくあんも、佃煮も、かまぼこも、はんぺんも、

塩ジャケも、アジの干物も、イカの塩辛も、みそ汁でさえも、

み~んな遠ざけて暮らしている。

 

その暮らしが、もう10年にもなろうとしている。

 

なのに、いまだに、しょっぱいものを一口食べたい衝動に駆られる。

いや、できれば、ぱくぱく存分に食べたくてしようがなく、

なんとなく欲求が満たされない思いでいつも食事をしている。

 

そこへもってきて、

クリニックで取ってくれているお弁当が、さみしい・・・・・・。

 

480円で、栄養バランスを考慮し、塩分を控え、リンがどうの、カリウムが、

って、そりゃ、充分なお弁当を望む方が間違ってるかもしれない。

 

だけど、透析5時間中の最大の楽しみであるわけで、

お弁当のフタを開けた時に、がっかりさせられるのだけは勘弁して欲しい。

 

そうだ!

そこで思いついたのは、梅干しひとつ。

毎回、梅干しをひとつ持っていって、お弁当と一緒に食べよう、ってこと。

 

お弁当は、いつも透析開始から1時間後、午後6時に配られてくる。

食事終了後もまだ、4時間ほどは透析は続く。

 

だから、そこで梅干しひとつくらい食べても、

4時間のうちには、体に残ること無く透析されてしまうに違いない!

そうだ、そうだよ、梅干し持って行こう!

 

しょっぱいものは食べられるし、お弁当のおかずには最強だし。

 

そう思ったらもう口の中は梅干しになってしまい、

楽しみで楽しみで仕方無く、

どうせなら、うんとしょっぱい昔ながらの梅干しがいいと、

おばあちゃん(母)の手作りのをもらってきた。

 

もう、10年も食べていない、母の梅干しだ。

余計に嬉しいじゃないか!

 

子供の頃は、裏庭に梅の木があって、

たわわに梅が実り、それを収穫して梅干しをこしらえていた。

今は、奈良だか和歌山だかから、梅をもらってきて漬けるのだという。

 

すぐにでも、ひとつつまみたい衝動を堪えて、

透析に持って出かけた。

 

でも、なんだかこっそり悪いことをしているような気分になり、

隠し事してるわけじゃないんだ、と自分に言い聞かせ、

ベッドのテーブルに目に付くように置いた。

 

「なに?」

さっそく看護婦さんが聞いてくる。

「梅干しだよ。透析中なら平気かなって思ってね」

「考えたわねぇ」

おっ、どうやら、問題なさそうじゃないか^^v

 

さぁ、いよいよお弁当が配られてきた。

フタを開けて中を見る。

梅干しがあるという嬉しい気持ちが先にたって、

なんだか豪華なお弁当のような気がする^^;

 

さて、梅干しをひとつ。

大事に大事に口にほおばる。

うへぇ~、しょっぱ、すっぱぁ~~~~い、けど、うまい!

 

塩分は旨味なんだなぁ、としみじみ、つくづく、噛みしめる。

 

ぉおっと、こうしている場合じゃない、ごはんだよ、ごはん。

梅干しには白いご飯だよ。

そして、よ~ぉっく噛むんだよ。

 

独り言をぶつぶつ言いながら、

梅干しひとつで、ご飯を半分以上食べてしまった。

 

それから、毎回、いそいそと梅干しひとつ持って透析に通う。

 

こりゃ、梅干しの漬け方を習っておかないといかんかな、と

そんなことまで思い始めた。

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