シャント音がしない

夏の寝苦しい夜、草木も眠る丑三つ時、

暑さのせいか、痛みがしたからか、目が覚めた。

 

左手のシャントに右手をやると、

あれ?ドックンドックンという脈を感じない・・・・・。

え?感じない?

 

耳に当ててみる。

あれ?音がしない?!

 

シャント音が聞こえない?

 

止っちゃった?

そんなバカな!

 

シャントの吻合部あたりは、

軽く手を添えるだけでドクンドクンと大きな拍動を感じるし、

耳を近付ければ、シャンシャンと血流の音が聞こえる。

 

なのに、ウンでもスンでもない。

 

そんなバカな!

 

信じられない、受け入れられない。

 

強くマッサージをし、手を添えたり、耳をあてたり、

布団の上に座り、うろたえながら、30分ほど繰り返す。

 

が、変化は起きない・・・・・。

どうしよう・・・・・。

 

隣に寝ている女房を起こす。

「うん?なに?どうかした?」

異変を察知し、女房が跳ね起きる。

女房を起こしてどうなるもんじゃない・・・・。

 

「シャントが止っちゃったみたい」

「え?!」

「ほら」って左手を差し出す。

「ほんとだ。どうして?」

「わからない」なんの心当たりもない・・・。

「どうするの?」

「どうしよう・・・病院に電話してみるか」

 

少し気持ちは落ち着いてきたが、

どうしてよいやら、まったく見当がつかず、

夜中だというのに病院にそ~っと電話する。

 

婦長さんが出てくれた。

きっと自宅で緊急電話対応してくれているのだろう、恐縮する。

 

「シャントが止っちゃったんです」

「痛い?」

「はい、ちょっと痛いです」

「マッサージをしてみて。吻合部から上へ向かって強くね。」

「わかりました。」

「それでもし復活しなかったら朝病院へ来てくれる?」

「はい、わかりました。すみません、夜中に。」

「もし、何かあったら何時でも電話ちょうだいよ。」

「ありがとうございます。」

「それからね、もしね、朝来なくちゃならなくなったら、入院の支度をしてきて。」

「入院ですか?わかりました。」

 

どうなっちゃうんだろう。

 

マッサージをしたり、右手を添えて祈ったり、

朝まで何度かうとうとしながら不安定な夜を明かす。

つづく

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