「こんにちは」
うとうとしているところを起こされた。
「リハビリの◯◯です、よろしくお願いします」
「あ、はい、お願いします」
リハビリの先生が来た。
この病院はリハビリに力を入れているようでリハビリの先生が何人も居て、廊下のあちこちで歩行訓練をしている。
「どうですか?」
「痛いです」
心臓バイパス手術後のリハビリがきつかったことが忘れられず(その話はこちら⇒)警戒感たっぷりに対応する。
「起き上がれますか?」
「ベッドをうんと起こせば…」
「それでいいですよ、可能な方法で、ゆっくりで」
警戒しながらもついついいいとこ見せようとがんばろうとする。
「ここまでは大丈夫とか、これ以上は痛いなとか、そういうことを確認しながらでいいですよ」
「なるほど」
「どの辺でどのくらい痛いとかが判っていれば次は気持ちが楽に動けるでしょ」
「なるほど」
そんな指導を受けたのは初めてで目からうろこだ。
「ベッドから降りられますか?」
「できそうな気はするのですが…怖いです」
「そうですよね、じゃ私が補助しますから」
動かしきれない右足を抱え込むように支えてくれる。こちらの意思や動きに併せて支えてくれる。必要以上の力は加えられない。先生の力で動かされることはない。こちらが恐怖と戦っていてなかなか動かし始めないのも先生は辛抱強くただ支えて待ってくれて、こちらが動かそうとすると、その力に添うように支えの向きや位置を変えて支えてくれる。
だから、痛みをこらえて動いたりはしない。痛みそうなところでそれを先生が感じ取って支えてくれる。
なるほどこれがリハビリなんだな。そうしてついに痛みを感じること無く立ち上がるところまで漕ぎ着けた。体の動かしかたや力の入れ具合を体が覚えたので後はひとりでも繰り返せるだろう。
とにかく、ひとつひとつなるほどと目からウロコのご指導だった。
そのおかげで、苦痛もなく、怖さを乗り越えるほんの少しの勇気で、その勇気もリハビリ先生に導き出されたようなもので、成果として、自力で起き上がってベッドから降りて立つことができた。もちろんその逆も。
今日はここまで。明日から歩行練習だという。
プロにお任せするってうのは、こういうことなんだな。
体が動き始めて回復へ向かっている気がしていたが、その一方で、快方へ向かってないない問題が頭をもたげつつあった。
(つづく)