心臓バイパス手術を受けるため隣市の病院に入院した。
病院のパジャマに着替えて、点滴が始まる。
血液を固まりにくくする薬の服用をやめて、
血液をさらさらにする薬の服用を始める。
「手術は4日後の9時頃からになります」
4日かけて血液をさらさらにするらしい。
手術へ向かってじわじわと進んでいる感じだ。
「苦しくなったら、すぐに知らせて下さい」
看護婦さんがナースコールのボタンを指し示して言う。
でも、そんなことが起こるとは、どうしても思えない・・・・。
手術までの間、この病院で透析を受けることになる。
透析室までは車椅子で連れて行ってもらえる。まるで重病人だ。
「心臓の手術?大変ね、がんばってね」
透析室の看護婦さんが声を揃えて言う。
やっぱり重病人なんだ。
先生から手術についての説明があった。
ご承知のように3カ所のバイパス手術になります。
ひとつは、肩から右脇腹へ向かっている動脈を持ってきます。
もうひとつは、同様に左脇腹へ向かっている動脈です。
みっつめは、胃の下にある動脈か、膝下の静脈を使います。
この病院では、心臓は動いたまま血管の手術をします。
一般的には、人口心肺で呼吸させて、心臓を止めてとりだして
手術をするケースが多いです。
止めない方がダメージが少ないので、当医院では止めずに、
取り出さずに手術します。
肋骨は切らずに済むのですか?
いえ、切ります。
のど仏の下辺りからお臍の上辺りまで切って、
肋骨を開いて、心臓を特殊な方法で押さえつけて少し動きを
少なくして手術します。
心臓の裏側の血管は、心臓をひっくり返すように工夫します。
7時間ほどの手術になります。
97~98%は大丈夫な手術です。
切断した動脈の残りはどうなるのですか?
娘が質問する。
縛っておきます。
その動脈の先に血液がいかなくなっちゃって大丈夫なの?
その他疑問は残るが素人の疑問をぶつけても仕方がない。
プロが判断したことだ。
お任せします、よろしくお願いします。
がんばりましょう。
聞かない方が恐くなくて良かった。
聞いてしまったばっかりに、その手術の大変さが偲ばれて、
我が身がとんでもないことに直面していることを思い知る。
「すごいね」
妻と娘と言葉少なにベッドに戻る。
(つづく)