最後の顔がゆがんだ

週末金曜日の透析を終えて、夜の10時半頃、家に着く。

週末のこの時間が一番嬉しい。

これで明日明後日と透析は無いし、仕事も休みだし^^v

 

が、妻の表情が暗く、

「お父さん・・・・、T君が・・・・・・」

 

宇都宮に住む高校の同級生のTが、ガンに侵され、年内もつかどうか、だと。

そういう連絡があったという。

 

年内って、あと20日もないぞ。

 

「なんで?どうして?急すぎじゃないか、なにがあったんだ?」

一瞬、受け入れることができない・・・・・・。

 

だけど、今ならまだ話もできるから、お父さんに会いたいんだって

そうか、解った、行くよ、すぐ行くよ、明日朝一番の新幹線で行くよ

面会時間は午後2時からだって

何言ってるんだ、何時だって会えるさ、会わせてもらえるさ

 

 

高校時代に最も仲良くしていたもうひとりの友人Aと、

翌日土曜日、新幹線に飛び乗った。

 

どこのガンだって?

それが慌てちゃって聞いてないだよ・・・・

そうだよなぁ、慌てちゃうよなぁ、信じろっていうほうが無理だよなぁ

6月に会った時には、そんなこと言ってないし、気づかないし・・・

半年かぁ、あり得ないことじゃないけど・・・・

だけどさぁ、・・・・・・

あいつさぁ・・・・・

子供はいくつになるっけ・・・・

あんまり長居しちゃいかんよなぁ・・・・

なんて声かけたらいいのかな・・・・・・

 

宇都宮までの重苦しい3時間あまりの時間。

 

宇都宮駅からタクシー飛ばして、いよいよ病院へ。

逃げ出したいような思いに駆られながら、病室のドアをノックする。

「はい」

奥さんと思われる女性の声にかき消されそうにTの声も重なる。

 

「ぉお~」って顔を合わせた瞬間、3人とも、

それぞれの思いを言葉に表現でききれずに・・・。

 

「元気そうじゃないか」

「なんとか今日は調子いい、よく来てくれた」

「びっくりしちゃってさ、ガンだって?」

「それが膵臓ガンでさ、・・・・」Tは病状と経緯の説明を始める。

 

そして、3人それぞれに病気自慢を重ねて、

話は知らず高校・大学時代のお決まりのバカ話へ。

あの時はどうだった、この時はそうだった、と楽しかった場面を次々と。

病室で笑い声をあげる不謹慎を横目に、Tにも笑いが出て、・・・・・

 

だけど、本当に年内なのか、なんとかならないのか、

ほんとうに聞きたいことには触れない、逃げ腰な会話をするうち、Tが、

 

 

「もって年内、とか言われちゃってさ・・・・・」

 

 

「年内・・・って、バカ言うな」

「正月に60歳を祝う同窓会やるって案内があったじゃん、待ってるで」

「ぉお、同窓会な、行きたいな」

「会いたい奴、居るら?」

「待ってるぞ、絶対に来いよ、迎えに来てやってもいいぞ」

 

知らず、1時間半も長居をしてしまっていて、

「ぼちぼち帰るな、疲れさせちゃったな」

「うん、わかった、ほんとにありがとう」

 

Tは、起き上がり、ベッドを降りて立ち上がる。

「ありがとぉ。お見舞いに来てくれた人には、やって欲しいことがあるんだ」

そう言って、大きな手を差し出し、握手を求めた。と

「ハグしてくれ」

 

なかなかハグなんて、実生活の中では、映画やドラマみたいにしない。

 

「そういうことか、わかった喜んで」

なんだか抱きつくような格好になってしまいながら、言葉を探した。

元気で、とは言い難く、

「会えて良かった」と言葉を発したとたんに嗚咽がこみ上げて、

それすらちゃんと言えなくなってしまった。

 

Aも彼とハグをして、

いよいよ病室を後にすることにした。

 

もう、ほんとうにこれで会えなくなってしまうのか。

数日後に、ほんとうに逝ってしまうのか。

彼は居なくなってしまうのか。

 

別れ際、病室を出る時、

彼の顔がゆがんでしまったのは、

彼の涙のせいだったのか、それとも私の涙のせいだったのか・・・・・。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です