いざ、さらば!

「ありがとう、居てくれて良かった」
「あ、… こちらこそ、助かりました」

同室の隣人が、退院していく。
思いの外たくさん、それも遠慮会釈なしに話ができた隣人だった。

「お元気で!」
「もう戻って来んように、な」
「はい、お互い!」

隣人が部屋を出ていき、一人部屋に戻った。そして、家内の迎えをひとり待つ。そう、私も退院だ。

昨日から嘘のように足があがるようになった。慎重に足を動かす分には痛みも走らない。これなら胸を張って帰れる。

一昨日、家内から
「下の部屋で寝れるようにしておく?」
「2階のままでいいよ」
「階段昇れるの?」
「今は無理だけど這ってでも行くよ」

昨日はリハビリで階段の登り降りのコツを教わって訓練した、大丈夫!

が、なぜか、胸やけがしだした…あれ?なんだ?

でも滅多なこと言うと退院見送りになっちゃうといけないので黙ってこらえて、迎えに来てくれた家内と退院した。

この1年で4回も入院して、すっかり勝手知ったる病院よ … さらば!

シャバの空気って言うけど、特に感慨もないが、家に帰れるのは嬉しく、気持ちが弾む。

と、助手席で5分もしないうち、吐き気に襲われる。
「気持ち悪い、吐きそう…」
「え?大丈夫?病院戻る?」
「バカ言うな… うツ!」

吐いてしまった。

道路脇へ車を停めてもらい、様子を見る。吐くこと3~4回…苦しくて冷や汗に涙…もうグチャグチャクタクタだが、落ち着いてきた。

「いつも入院すると体調崩すね」
「う~ん、なんだいなぁ」
「病院出たらすっかり元気、が普通なのに」

「もう大丈夫、帰ってくれ」
「戻らなくていいのね?」
「バカ言うな…」

「晩ご飯どうする?食べれないでしょ?」
「大丈夫だと思うな、吐いたらすっきりした」
「うち帰って何か見繕う?」
「うどんでも冷たくツルツルっと」

病院ではご飯が喉を通らなくなってしまっていたが、何を食べようかと晩ご飯の心配をしながら帰路につく。

いざ、さらば!

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