歳とってはじめたことー釣りー

50歳になったかなるかの頃、釣りをするようになった。もっぱら家から車で30分ほどの港の岸壁とか防波堤で釣りをした。イワシとかアジとかコノシロとか小魚をサビキ釣りした。

特に釣りが好きだったわけじゃない。釣り好きなツレ(友人)に付き合うために釣りをした。

ツレがうつになりまして…(そんな漫画が流行ったね…)、少し調子が良いとひとりで好きな釣りに行ってしまっているという。いいのか、そりゃ危ないんじゃないのか!と余計な心配をした。何か気持ちの揺れた拍子に海に飛び込んじゃう可能性だってあるんじゃないのか!

ツレの様子を見に釣り場の港に出かけてみた。休日だったこともあり大勢の釣り人が岸壁に並んで釣りをしている。まぁこれだけ人の目があれば滅多なことはないか。とも思ったが、横に並んで話をするうち、一緒に釣り糸を垂らして付き合ってやろうかと思った。少しでもツレの気晴らしになればそれでいいし、と。

「俺も釣りしてみるかな」
「やりゃいいじゃん」ツレはエリートでプライドも高い…
「教えてくれや」
「いやだよ」ツレの冗談は慣れないとキツイ…

さっそく一緒について行ってもらって、ツレのアドバイスのままに道具を買い揃えた。

いざ出陣!

港の岸壁に並んで準備を始める。ボクは子供の頃に近くの川で竹竿で見様見真似で釣りをしたことがあるだけの超初心者なわけで、モタモタモタモタ……。その間に気短なツレは何かと競うようにサッサと準備を終え釣り糸を垂れた。と、ボクの支度を手際よく手伝ってくれる。

「なにモタモタしてるだ、魚が逃げちゃうぞ」
「すまんすまん、慣れないもんで…」

ほとんどツレに支度をしてもらって並んで座って釣りを始める。

ツレは、餌を付け替えたり、深さを調整したり、いろいろしながら釣果をあげる。ボクはただボヤ~っと釣り竿の先、さらにその先の海原を眺めているだけで釣果があがらない。

それを見かねたツレ…
「エサを替えてみるとか、工夫しろよ」
「ぉお、まぁいいじゃないか」

ツレは、釣果を楽しみつつボクの面倒もみてくれる。こうしていれば、うつなんて信じられないのだが、まったく調子悪い日もあるという。

そうして、昼間はもちろん、早朝だったり、夜中だったり、雨の日だったり、時に鯛ネライだったり、さまざまにツレの指南のままに釣りをした。

釣果はそれでもゼロではないので、釣った魚を捌くことも教わり、食卓を飾ったりもした。

釣り糸を垂れてぼや~っと海を眺めているのも悪くないと思いながら、だけど別に特に釣りがしたいわけでもないので、ひとりで釣りに出かけたことは1度か2度あったかどうか。

何年か経ち、ツレが釣りに行かなくなった、調子が悪いのか…。それでも誘えば釣りに行かないでもないので、何度か誘ってみたが、以前ほど楽しそうじゃなく、会話もはずまない。誘うことがかえってツレに負荷をかけてるような気持になり、誘われもしないし誘いもしないしと、たまに与太話はするが、釣りには行かなくなってしまった。

歳とってはじめたこと。釣りはそれなりに面白かったが、ひとりでも出掛けるほどではなく、道具は埃をかぶったままだ。

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