シャントの再手術のため、手術室に入る。
一年半前のはじめてのシャント手術と同じ細い十文字のベッド、
それを照らす大きなライトが天井からつり下がっている。
今回はもう先生がスタンバイしている。
左手は手術、右手は血圧、とベッドに十文字に張り付く。
「では、始めて行きましょう」
「お願いします」優等生の患者は返事がいい。
「麻酔を打ちますよ、チクッとします」
歯を食いしばる。恐いし、痛いのは嫌いだ。
3刺しくらいで感覚がなくなった。
電気メスだろうか、モーター音のような音が聞こえる。
はじめてのシャント手術と違って、少し周囲を観察できる。
ヂヂヂヂヂっ
え?切ってる?
切ってるぅ~、切ってる音だぁ~
ん?焦げ臭い?ほんとか?
あちこちに気が回って、かえって恐い・・・・・・。
「大丈夫?静脈の処置が済みましたから、動脈になりますよ」
緊張した面持ちだったのだろう、看護婦さんが声をかけてくれる。
余計に想像力がたくましくなる。
ウィ~ン、ヂヂヂヂヂ
動脈を切ったか?
その時、ビクンと手術中の腕が跳ねた。
「ぁあ、ごめん、痛かった?」
と、痛みが走った。
びくびくしているので、
押さえられたり引っ張ったりされただけでも痛みに感じるのだが、
確かに痛みだ。
神経を触ってしまったらしい。
もう一度、局所麻酔をしてくれたようだ。
すぐに痛みは治まった。
もうこのまま痛まないで終わって欲しいなぁ。
そうだ、気を紛らわせるように歌を歌おう、歌を。
アップテンポの歌がいいな、何にしようかな、え~っと。
「心臓バイパス手術の時は、どの血管使った?」
「両脇のところの動脈と右足の静脈です」
「そうか、動脈は持って行かれなかったんだ、良かった」
何が良かったのか解らないが、
手術中に先生と話をするなんて画期的じゃないか!
声を出したら緊張感が緩んで歌のことは忘れた。
「大丈夫?動脈と静脈をつないでいますからね、あと少しね」
「はい、ありがとうございます」
「大丈夫?皮膚を縫ってもう終わりですからね」
やった、終わりだ!
「はい、終了です。うまくできましたからね」
「ありがとうございました」
一回目よりずいぶん短く感じた。
手術室の時計を見ると、手術時間48分となっている。
腕の良い先生だと、かつての主治医から聞いている。
「これで、今夜は普通に透析できますよ」
え!えええ!
動脈から強制的に透析、という荒療治は受けなくて済む?
ほんと?
やった!うれしい!
「ありがとうございます!」
(つづく)