シャントの風船治療が済み、
だけど手術に使った針は抜かないままに透析の時間を待つ。
針を腕に刺したまま、待合室に腰掛けているのも恐いモノだ。
が、その後にもっと恐いことが待っていようとは・・・・・。
「それじゃ、そろそろ始めましょうか」
透析の仕度も整った。
「痛かった?」
「とぉっても」
看護婦さんがいつものように聴診器でシャント音を確認する。
え?看護婦さんの表情が陰った。 確かに陰った!
心なしか早足で別の看護婦さんを呼びに行く。
どうした?アクシデントか? アクシデントだな。
シャント音が聞こえない!
ほんとだ、触っただけで解る。
いつもならシャンシャンという勢いの良い感触があるのに、 まったく感触がない。
え?どうするんだ? シャント手術のやり直し?
え〜、やだよ、勘弁してくれよ・・・・。
看護婦さんが先生を呼びに行く。
婦長さんが来た、臨床検査技師が来た、手術室の看護婦さんも来た。
手術室の看護婦さんがマッサージを始めた。
手首の吻合部から肘の方へ向かって、血管をグリグリさせながら、
痛いかどうかなんて聞かない、かなりキツイめのマッサージだ。
しばらくマッサージを施すうち、
「あ、大丈夫、もう大丈夫」
看護婦さんの顔に余裕が見えた。
先生は慌てた様子もなく、
「詰まっとったんやね」
そういえば止血のバンドがかなりキツかった。
痛いくらいにキツかった、そのせいか?
それにしたってキツく押さえたくらいで止まっちゃうものなのか?
「良かったぁ」
「びっくりしたねぇ、音がしないだもんね」
看護婦さんと喜びを分かちあい、 やっとのことで透析開始の準備に入る。
採血側は風船治療の際の針を使い、 返血側は新しく針を刺す。
「じゃ、針刺していきます」
「5本目だよ・・・、泣いちゃいそう」
「これで、今日は最後ね」
「もうそこの麻酔シール、時間が経ち過ぎちゃったね・・・」
麻酔シールは2時間前を目安としているが、もう3時間を経過している。
が、もう痛いんだか、どうなんだか、腕中じんじんしていてよく解らない。
「3時10分、透析スタートね」
「はい、ありがとう」
5本目、これで最後のはずだった・・・・・。
「ちょっとゆっくりめで1600で回すね」
風船治療とシャント詰まりの後だけに、
血流の量を普段は2000ml/mのところ1600ml/mでスタートした。
短時間に襲いかかられた絶望的騒動から解放され、
(そもそも注射をすること事態が絶望的で・・・^^;)、
ぁあ、良かったぁ、済んだぁ、と静かに目を閉じる。
と、透析機のブザーが鳴る!
またか!
またアクシデントか?
看護婦さんが慌てて戻ってくる。
「1600でもダメだ・・・・・、1200にしてみるね」
ぁあああ、ググググゥって来た!
血管の悲鳴だ。 前にもあった血流が確保できない時の血管の反応だ。
ググググゥググググゥという、いやぁ~な感触だ、いやぁ~な。
また手術室の看護婦さんの登場だ。
先生も来た。
何やら機具を持ち出し、 どの程度の血流が確保できるのかを調べ始めた。
「ダメです、コラテに入っているのかもしれません」
「そうか、コラテか。それでちゃんと届かへんかったんや」
「血流も確保できません、打ち直しですね」
ぇええええ!打ち直すって針をぉ?
(と、そうは大声で言わない哀しい優等生患者・・・・)
「わかりました」
もう針を刺すところは上腕部しか残っていない。
でも上腕部は先頃の止血失敗で腫れ上がった紫色が、
まだ完全には消え去らない状態で・・・・。
何より、そこに麻酔のシールは貼ってないわけで・・・。
と、グズグズ思っているうちに上腕部が消毒され、
再び全身汗びっしょりが早いか否か、針が刺される。
風船治療の際に、
管がコラテ(本流ではない血路)に入っていってしまうからって、
管を入れる針を手首に打ち直したけど、
その針がコラテ側に刺されてたってこと?
なんだかなぁ、針刺され損みたいな話だなぁ。
「今度こそ、最後ね」
「6本め、出血大サービスだよ、1週間分^^;」
今度こそ、今度こそ、静かに目を閉じて、
ズタズタでジンジンする左腕を痛みや緊張や恐怖から解放する。
風船治療にも透析にもケチつきまくりの顛末でした。