その頃、世の中には静かに親父バンドのブームが来ていた。
つま恋では、吉田拓郎とかぐや姫が30年ぶりにコンサートを敢行した。
身近なところでは浜名湖フォークジャンボリーが開催された。
高校を卒業し30年ほどが経過した我々は、少しづつ肩の荷を下ろし始めていて、
30年前よりも無邪気な顔をして、高校生のように目を輝かせて集まり始めていた。
高校の同級生たちとつま恋にもフォークジャンボリーにも、
ピクニック気分で出かけた、お弁当を持って。
フォークソングを聞きには行くし、大声で一緒に歌いもするが、
舞台の上で歌う側に立とうなどとはこれっぽっちも思っていなかった。
「もう一度やるか、ギターを弾くか」
そんな同級生の誘いは、まったく現実味を帯びない誘いに聞こえていた。
はずが、なぜかその熱に浮かされた。
そしてさらに熱に浮かされた同級生がもうひとりいて、
3人でグループを組むことになった。
さっそく友人の家に集まり練習を始めた。
「この日にエントリーしといたで」
友人は、いつの間にかライブハウスで歌う段取りを進めていた。
「ぇえ~、まだ無理じゃん」
「大丈夫だよ、まだ練習できる日はあるし」
「曲を決めにゃいかんじゃん」
「4~5曲だよ、30分だから」
話は当然のようにライブハウス・デビューへ向けてどんどん前へ進んでいく。
フォークソングは好きだ。
歌を歌うのも好きだ。
だけど、
人前で歌うのは、居酒屋でカラオケで歌うのとはだいぶ違う。
それにギターだって弾かなくちゃいかん。
人に聞いてもらえるくらいには弾けないと失礼だし恥ずかしい・・・。
無理だ・・・・。
そういう思いに押しつぶされそうになりながら、
なのに、そこは3人寄れば何とやらで、何とかなりそうに思えてくるから不思議だ。
ひとりは何度かライブハウスに出ていたし、
自分たちとは比較にならないギターの腕前だったから、
それが気持ちを大きくさせたのかもしれない。
そうしてとうとう、ライブハウス・デビューの日は来た。
(つづく)