突然の息苦しさに襲われた朝から、
タバコを辞めた。
結局、息苦しくなった原因は解らなかったが、
息が詰まってしまうようなあの苦しさは、
タバコからくる肺の苦しさとしか思えなくて、
タバコが恐くなった。
30年以上も吸い続けてきたタバコ。
いいことはひとつも言われなくて、
それ値上げだ、やれ嫌煙権だ、ダメだ、辞めろと,
誰もが口を揃えて言いはやす。
しかも、一日40本は間違いなく吸っていたタバコ。
何を言い訳しても不利なだけで、「そうだね」と無抵抗に答えてきた。が、
「やめるわけがないじゃん」と内心思ってきた。
辞めるつもりなど、これっぽっちもなかったのだ。
食事の後の一服はもちろんだし、
コーヒーだってタバコが無いんじゃ飲む意味がないくらいに思っていた。
考え事だって、タバコが無いんじゃろくなアイディアは出ないと思っていたし、
タバコ休憩に交わされる会話のヒントに富んだ重要性をまじめに唱えてもいた。
でも、
そのタバコが恐くなった。
辞めようと思った。
その日の朝からタバコを吸わないで居た。
一日、吸わないで過ごせたが、
そのまま辞め続けられる自信もなかったので、
誰にも言わずに、黙ってタバコを辞めることにした。
二日め、三日め、タバコを吸わずに過ごす。
いけそうじゃん。
タバコを持つことも辞めにした。
どうしても我慢できなくなった時には、という構えがあり、
ポケットには、それまでと同じようにタバコを忍ばせていた。が、
持たないことにした。
四日め、五日め、タバコを吸わずに過ごす。
いけそうじゃん。
開封したままのタバコの賞味期限がまだ半年残っている。
賞味期限がくるまでは、捨てないで仕舞っておこう。
六日め、七日め、タバコを吸わずに過ごす。
一週間じゃん、いけるじゃん。
人に言うことにした。
「タバコを辞めたんだ」
思わずポケットにタバコを探したり、
ちょっとくわえてみたい衝動にかられたり、
このタイミングでタバコに火を点けるなぁって思ったり、
人のタバコの煙を吸い込んでみたり、
いろいろな誘惑が襲いかかるけど、
結局の所は、吸うのか吸わないのか、自分の意思ひとつってことなのだ。
「タバコを辞めたんだ」
(つづく)