下肢閉塞性動脈硬化症の手術(8)ー夜逃げかー

朝からそわそわする。
今日退院できるのか、それとも引き続きのバイパス手術に突入してしまうのか、何がなんでも帰るぞ!


朝ご飯後、順調に快便を済ませ、ひとりでスタスタと透析室に向かう。
すこぶる快調なことをアピールする、誰に?…

透析後の遅いお昼ご飯も済ませ、リハビリ先生のリハビリを受ける。
「多分、今日退院しますので、お世話になりました」
「おめでとうございます、すっかり動きは問題なしです」

さて、次はシャワーだな。頭は洗っているが全身にお湯を浴びることをしていないので、一度試しておきたい。先生からシャワーOKも出ている。が、

看護婦さんが抵抗する。
「だって、透析の後ですよ、倒れちゃうかもしれない」
「大丈夫だって、椅子に腰かけてそ~っと浴びるからさ」
「でも…」
2~3人の看護婦がま~るくなって相談している。しかして、シャンプーだけということになった。それも見張り付きで、仕方ない。

晩ご飯を済ませ、妻が来る予定の午後6時半を待つ。
すっかり荷物を片付けて、着替えもして、帰る準備万端である。

妻が来てくれて、先生も登場する、珍しく時間通りだ。
「もう、帰る気満々やん」
「はい」
「昨日も旦那さんに説明させてもらいましたが……」
先生は、今日も絵を描いての説明・動画の再生・今後への悩ましさ等を話された。

「手術の目的は、痛かった足を治すことで、その目的は果たしているわけやけど、CTの結果を放っておくわけにはいかへんわけで、切らせてもうた私としても先に進みたい」
先生の正直なお気持ちなのだろうと思った。
「私は、放っておいても遅かれ早かれなので、このまま引き続き手術で良いと思ったのですが…猶予はどのくらいですか?」
「はっきりとは判らへんのやけど、ひょっとしたらこのまま10年もなんともなく過ごすかもわからへんし…、が、1ヶ月くらいやろか」

先生の医者としてのスタンス、技術者としてのスタンス、その葛藤がよく伝わってきた。ここはボクの葛藤を話す番だな…

「先生、現在の状況もバイパスの必要性も理解できましたし、手術は全身麻酔で先生にお任せするしかないわけで、それも何ら心配もしていません。ですけど、手術終わりの麻酔が切れた後のあの痛み、あれは尋常じゃありませんでした。心臓手術の時もあんなに痛んだ記憶がありません、翌日朝まで眠らされていたからでしょうけど。あの痛みから解放してもらえませんか」
「痛そうやったもんなぁ」
「私も4度も全身麻酔手術受けてますが、あんなに痛んだことありません」
「そうかぁ、わかった。局部麻酔とか、それは約束する」
「座薬を2つも3つも放り込んでおいてください」
「そら、あかんわ」
「カルテに書いておいてくださいね」妻が念を押す…。

看護婦さんが後ろで笑ってる。

「それと、いったん帰ってリセットさせてください。まだ傷口もシクシク痛むし、あの術後の痛みの記憶を背負ったまま怖くて次へ突っ込んでいけません…」
「判りました。それやったらこうしましょ」

1ヶ月様子を見て、再度CTを撮ったり検査して、次の判断をしましょうというお話で、胸のつかえを下ろして明るく了承させてもらった。

時刻は夜の7時半を廻っている。
先生が傷口の最後の処置(絆創膏の張替え)をしてくれた。

普通ならあり得ないだろうけど、そんな時間に通用口からそおっと退院させてもらってきた。そこそこの荷物を抱えて。

「夜逃げみたいね…」
「今日はありがとう、助手席でいいか?」

家へ向けて!

1ヶ月後くらいにつづく

“下肢閉塞性動脈硬化症の手術(8)ー夜逃げかー” への2件の返信

  1. 痛かったようですね!私は、膵臓全摘出手術で9時間の大手術を6/14行ましたが、術前に背骨沿いにワイヤーを通して痛みを無くす術を使用してくれたので、術後の痛みは全く感じませんでしたよ。因みにステージ2Aでした。

    1. 大石さん、こんにちは。

      コメントをありがとうございます。
      膵臓全摘出ですか、大変でしたね。痛みに対する事前の策があるんですね、初めて知りました。今回の手術後の痛みは恐怖となってボクを苦しめます。手術の傷口もまだシクシク痛みますが、恐怖感から解放されるにはまだ少しかかりそうです。

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